ここ数年間で企業の内部留保が問題となっています。内部留保とは、簡単に言えば企業にとっての個人の貯金のようなもの、すなわち企業が貯め込んでいるお金のことです。お金を貯めることは悪いことではありませんが、なぜ問題となっているのでしょうか?ここでは税の観点から内部留保について考えてみたいと思います。
内部留保とは企業が貯めているお金のこと
内部留保とは、厳密に言えば企業が貯めている利益を言います。会計上の勘定科目で言うと「利益剰余金」に該当します。企業は一般的に年間の活動を通して当期純利益を得て、配当金を差し引いた金額が内部留保となるのです。
そして、内部留保を当期純利益で割って100をかけた数値が「内部留保率」となり、企業がどれだけお金を貯め込んでいるのかがわかります。内部留保率が高いほどお金を貯め込んでいて、日本では大体50%前後を行ったり来たりしていると言われています。ここ十数年の間に増加傾向にあります。
では、内部留保は何に使われているのでしょうか?その答えとしては設備投資や有価証券へと投資されています。個人の家計簿で言うなれば、貯金で車や家を買ったり、投資をしたり…と何一つとして悪いことではありませんが、企業の場合は問題視されています。それはなぜなのでしょう?
内部留保が問題視されている理由
内部留保が問題視されている理由としては、「内部留保が増えることにより本来使われるべき箇所に資金を回さず、景気の回復が遅れてしまう」ということが挙げられています。具体的にどのようなことを指すのか考えてみましょう。
まずは、人件費の側面から考えます。利益剰余金が発生することによって企業は設備投資など、将来の利益を生むものにお金を使おうとすることは分かります。しかし、設備投資以外にも賃上げによって社員の給料を上げたり、新たな雇用創出のために人件費を増加することも大切です。
とはいえ、内部留保がここ十数年の間で増加傾向にあり、賃上げも課題になっているにもかかわらず、一向に改善していないのが現状です。雇用を創出すれば優秀な人材を雇えるし企業の発展に繋がり、非正規雇用が正規雇用になって少子化などの問題も解決の糸口が見つかりそうですが、なかなかうまくいっていないようです…。
そして、配当の側面から考えます。利益剰余金が潤沢にあれば増配して新たな株主を呼び込めますが、現状としては配当性向(当期純利益に対する配当の割合)は低下しています。
内部留保のメリット
内部留保が問題視されているもののメリットもあります。それは個人の貯金の場合でも同様の理由が言えますが、「万が一の時に備えられるため」「企業の信用を得やすいため」です。
企業が経営危機に陥った際には貯めていた内部留保に救われるでしょう。新型コロナウイルス感染症下で一時的に景気が落ち込んでも内部留保を切り崩しながら経営できます。また、内部留保を持っていることで支払いができると見なされ、信用にも繋がります。こちらは日本の商慣行が関わっています。
内部留保も課税される
内部留保は100%問題ではなく、いざという時に大いに役立つ存在です。また、内部留保も課税対象となり、「留保金課税」と呼ばれています。留保金課税とは、同族関係者が株式を50%保有している場合に追加で課税される法人税のことです。というのも、50%以上の株式を企業の特定の個人が有していた場合、その個人の意見によって企業が左右されてしまうためで、このような状況を防ぐためにも設置された税金です。現時点では留保金課税が内部留保への税金に該当します。
というものの、このような課税方法はほとんどの企業には当てはまりません。そのため内部留保に対する課税はほぼ無いと言っても良いでしょう。しかし、内部留保の活用を促すためにももっとアクションを起こさないといけないと言われており、その例として幅広い企業を対象とした内部留保そのものへの課税を行って賃上げなどへ資金を使わせるといった観点が議論されています。
しかしながらこの課税方法では、ただでさえ23.2%と高い日本の法人税率に加えてさらなる課税を行うといった側面から、企業の海外流出や日本の競争力低下が問題となってしまいます。
一方で内部留保を減らして、賃上げや設備投資に積極的な企業に対して減税するといった考え方もあります。これまでもそのような動きを促す税制が存在していました。しかしながら、日本の人口は減っていくほか、設備投資は常に行われるものではなく、恒常的に減税できるとは言えません。内部留保に対する課税については、問題点や解決法のブラッシュアップがまだまだ必要な議題です。
内部留保は今後どうなるのか?
内部留保には問題点だけでなくメリットもあります。今後少子化がさらに進んでいくと予想される中で、優秀な人材育成のための人件費として資金を利用することが大切でしょう。また、増配して株主へ還元し、株主を増やしていくことも重要です。理想的には同じように考える方もいらっしゃると思うのかもしれませんが、日本の商慣行では厳しい現実といえるでしょう。そのような中で企業が内部留保をどう利用していくかが大切だといえます。
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