年末調整や確定申告の時期になると、所得控除などの要件で「生計を一にしていること」という文言を見ることが多くなるのではないでしょうか。所得控除だけでなく、医療費控除、相続税の小規模宅地等の特例、また税金以外にもクレジットカードの申し込みなど、さまざまなケースにおいて「生計を一にしている」かどうかを判断する場面があります。
この記事では、検討する機会が多い所得税法上の「生計を同一とする家族」の要件や具体例を紹介します。判断がともなうケースもあるため、理解をした上で正確な申告をしましょう。
「生計を同一とする家族」の要件
「生計を同一にする家族」とは、日常生活を送るためのお金(家計)を同じくしている家族のことを指します。生活するための財布が同じであればよく、同居・別居を問いません。所得税基本通達2-47では、以下のように記載されています。
- 「生計を一にする」とは、必ずしも同一の家屋に起居していることをいうものではない
- 同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとする
引用:国税庁
同居であれば、独立して家計を分けている場合以外は「生計を一にする」とみなされます。一方で別居の場合でも、生活するための費用を送金をしているなど、家計を同じくしているとみなされれば「生計を一にする」とみなされます。具体例を後ほどの項目で紹介しますので参考にしてください。
「生計を同一とする家族」の範囲
生計を同一とするというと、夫婦や親子ではないと当てはまらないと考えられるかもしれません。しかし、所得税法上では扶養控除の対象となる「親族」は民法725条の親族となり、以下があてはまります。
- 六親等内の血族
- 配偶者
- 三親等内の姻族
国税庁タックスアンサーNo.1180のQ8において図表が示されていますので、参考にしてみてください。要件を満たせば、祖父母や兄弟、姉妹などかなり広い範囲で「生計を同一とする家族」にあてはまります。
「生計を同一とする家族」の具体例
「生計を一にする家族」とみなされる具体的な状況を紹介します。
(1)同居している場合
前述したように、同居していれば原則として「生計を一にする」とみなされます。同居していれば家計は同じであると推測されるからです。
一般的な例としては、以下のようなケースが考えられます。
- 夫が収入を得て、妻と子供が生活する費用も負担している
- 共働きの夫婦がそれぞれお金を出し合って生活している
- 子供が収入を得て、同居している両親の生活する費用も負担している
一方で、同居していたとしても以下のような場合は「生計を一にする」と認められない可能性が高くなります。
- 家計をそれぞれ完全に別々で管理している
- 水道光熱費のメーターが別で、それぞれ自分の分を負担している
- 住民票の世帯が別である
- 同居している家族間で、所有者に対する家賃のやり取りをしている
- 同居している建物の中で、玄関・台所・風呂などが分かれている
上記に当てはまれば「生計を一にする」と認められないのではなく、明らかに互いに独立した生活を営んでいるかどうかを状況から総合的に判断します。
例えば完全分離型の二世帯住宅で、親世帯と子世代がそれぞれ自分の生活費を負担しているケースが当てはまるでしょう。また民法725条では同棲や事実婚の状態ではお互いが親族の範囲に含まれないため、所得税法上では「生計を一にする家族」と認められません。
(2)別居している場合
別居している場合は、原則として「生計を一にする」とみなされません。
一般的な例としては、以下のようなケースが考えられます。
- 独立した子供が、別居で自分の収入で生活している
- 別居の両親が、貯金や年金で生活している
しかし以下のような場合は認められます(所得税基本通達2-47)。
- 別居しているが、仕事や学校のない余暇には同居している
- 常に生活費、学費、療養費などの送金をしている
具体的には、以下のようなケースが考えられます。
- 遠距離の大学へ通うために別居した子供に、学費や生活費を送金している
- 別居している親に子供が生活費を仕送りしている
- 単身赴任の夫が家族に生活費を送金している
一人で生活できるほどの収入がない人へ送金している状況や、ともに生活している実態を見て、生計が同一であるかを総合的に判断します。
ただし国外に居住する親族に対しては、所得税法上の扶養控除等を適用するためには状況を判断するだけでなく、一定の確認書類(親族関係書類・送金関係書類)を提出する必要があり、要件が厳しくなっています。
令和5年1月からは、扶養控除の対象とする国外居住親族は以下の要件を満たす場合のみに限定されました。
(1) 年齢 16 歳以上 30 歳未満の者
(2) 年齢 70 歳以上の者
(3) 年齢 30 歳以上 70 歳未満の者のうち、次の①から③までのいずれかに該当する者① 留学により国内に住所及び居所を有しなくなった者
② 障害者
③ その居住者からその年において生活費又は教育費に充てるための支払を 38 万円以上受けている者
引用:令和5年1月からの 国外居住親族に係る扶養控除等Q&A(源泉所得税関係)
このため、留学ビザ等書類や38万円送金書類の提出も求められます。
これは、実態として生活費などを負担していないにも関わらず、国外居住の親族を多人数扶養するケースがあるため制限が設けられたものであり、特別なケースといえます。
まとめ | 判断基準を理解して正確な申告をしましょう
以上、所得税法上の「生計を同一とする家族」の要件や具体例を紹介しました。
最後に紹介した国外居住親族に関するものだけは、要件が厳しく書類の提出も必要ですが、その他の場合は同居・別居を問わず、状況をみて総合的に判断します。所得税の各種控除が適用できるかどうか、正確に判断しましょう。
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