役員報酬は従業員へ支払う給与と違い、決め方や損金算入の要件に一定のルールが定められています。
役員報酬に明確な上限・下限は存在しません。ただし、不相当に高額では損金算入が認められない恐れや、資金繰りを圧迫する可能性が高いです。役員報酬の額は簡単には変えられないため、金額は慎重に決める必要があります。
今回は役員報酬の決め方について詳しく解説します。
損金算入が認められる役員報酬は3種類
損金算入が認められる役員報酬は3種類です。それぞれ詳しく解説します。
定期同額給与
定期同額給与とは一定のタイミングに同額で支払う役員報酬です。従業員に対する給与に近い性質をもちます。
定期同額給与を損金算入するには以下2つの要件を満たす必要があります。
- 1ヶ月以下の一定期間ごとに支給する
- 毎回の支給額が同額である
毎回の支給額が同じという点が最も重要なため、利益に合わせた増減や、インセンティブ・残業代等の支給は認められません。もし定期同額給与の額を変更してしまうと、差額部分は損金算入が認められなくなります。
単に「役員報酬」と呼ぶ場合、定期同額給与を指すケースが多いです。
事前確定届出給与
事前確定届出給与とは、事前に指定した金額・日程で支払われる役員報酬です。役員に対する賞与の性質をもちます。
事前確定届出給与を損金算入するためには、以下2つの要件を満たす必要があります。
- 期日までに税務署へ事前確定届出給与に関する届出を行う
- 届出の通りに支給する
届出の期日は以下のうちいずれか早い方です。
- 株主総会等による決議から1ヵ月を経過する日
- 事業年度の開始日から4ヵ月を経過する日
支給日や金額に少しでもズレがあると、対象の会計期間に支給する事前確定届出給与の全額が損金不算入となります。
業績連動給与
業績連動給与とは会社の利益に連動して支給額が決まる役員報酬です。
業績連動給与の損金算入は、非同族会社、および同族会社の完全子会社である同族会社のみに認められています。また、業績連動給与を損金算入するには、支給額の算定方法について有価証券報告書等の中で開示が必要です。
日本の中小企業の90%以上は同族会社のため、損金算入の要件を満たしません。また、非上場企業の場合は支給額の算定方法を開示するのが困難です。
したがって、中小企業では業績連動給与の支給はほとんど行われていません。
役員報酬の決め方
損金算入ができる役員報酬の中でも、特に重要性が高いのが定期同額給与です。この章では定期同額給与の決め方について解説します。
定款または株主総会による決議
会社法において、役員報酬の決め方は「定款または株主総会による決議」と定められています。実際には定款で役員報酬を定めているケースは少なく、株主総会の決議によって決めるのが一般的です。
会社設立1期目の場合、設立から3ヵ月以内に役員報酬を決める必要があります。設立3ヶ月を超えてしまうと、設立1期目の役員報酬は損金算入ができなくなるためご注意ください。
なお、株主総会では役員ごとの報酬額まで細かく決める必要はありません。株主総会の決議では役員報酬の総額を決め、個別の報酬額は取締役会等で決めるケースが多くみられます。
定期同額給与について届出は必要ありませんが、証拠資料として株主総会の議事録を必ず残しましょう。
役員報酬の変更方法
定期同額給与を変更できるのは、事業年度開始の日から3ヵ月以内に1回のみです。設立1期目と同様に、株主総会の決議によって役員報酬の変更について決定します。
例外として、以下のケースに当てはまる場合は事業年度開始から3ヶ月を経過しても役員報酬の変更が認められます。
- 役員の職位や職務内容が変わった
取締役が代表取締役に昇格した場合や、役員の業務量が増えた場合など - 経営状況が著しく悪化した
株主や金融機関等、取引先との関係を維持するために役員報酬の減額が必要と判断される場合のみ
期の途中に役員報酬を変更する場合も株主総会の決議が必要です。
役員報酬を決める際のポイント
役員報酬は簡単には変更できないからこそ、適正額を決める必要があります。この章では役員報酬を決める際のポイントを3つ紹介します。
収支予測を基に決める
役員報酬を決める際に必ず考慮するべきなのが収支予測です。
役員報酬があまりにも高額な場合、資金繰りを圧迫する恐れや赤字の原因になるリスクがあります。反対に役員報酬が低すぎても、利益が大きくなりすぎて法人税等の負担が重くなってしまいます。
役員報酬が高すぎるのも低すぎるのも好ましくありません。バランスの良い報酬額を決めるためには、売上・仕入・経費など役員報酬以外の金額を予測する必要があります。
同業種や規模の近い会社を参考にする
役員報酬は不相当に高額では損金算入が否認される恐れがあると紹介しました。明確な基準はありませんが、同業種や規模の近い会社と比べて高すぎると不相当に高額と判断されるリスクが上がると考えられます。
そのため、同業種や規模の近い会社を参考に役員報酬を決めるのも1つの手段です。資料の例として、国税庁による「民間給与実態統計調査」や、労務行政研究所の「役員報酬・賞与等の最新実態」が挙げられます。
専門家である税理士に、想定している役員報酬の金額が不相当な高額ではないか相談するのも良いでしょう。
法人税と個人にかかる所得税のバランスを考慮する
法人税と個人にかかる所得税のバランスを考慮することも大切です。
役員報酬が高額であれば法人の利益が少なくなり、法人税の節税につながります。しかし役員賞与が高額になればなるほど、受け取る役員にかかる所得税も高額になります。特に所得税は超過累進課税を採用しているため、一定額を超えると急に税負担が重くなる仕組みです。
役員の税負担が重くなりすぎないよう、法人税と所得税のバランスを考慮して適正額を決める必要があります。
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