親が亡くなった時、親の財産に対して相続税を支払うより、生前に少しでも贈与してもらえば相続税の支払いを減らせます。しかし、金銭などの財産を贈与された場合には、贈与税がかかります。
親子間では、生活費などで金銭を渡すことは一般的であり、まとまった金額でなければ贈与税が課税されるか否かをあまり意識しないかもしれません。
親子間の財産贈与においては、贈与税がかからない場合とかかる場合があります。この記事ではそれぞれの具体例を紹介します。正確に判断し、贈与税の申告漏れがないようにしましょう。
親子間で贈与税がかからない場合の例
親子間で贈与税がかからない場合の例として、以下のようなものがあります。
(1)扶養義務者から生活費や教育費として贈与される財産
親子や夫婦などの扶養義務者から、生活費や教育費として贈与される財産に関しては、贈与税は課税されません。
ただし、主に以下の点に注意が必要です。
- 通常必要と認められる金額であること
- 生活費や教育費の名目でも、実際は預金したり株式や不動産を購入したりしていないこと
- 夫が妻の両親から贈与を受ける場合など、義理の関係であれば扶養義務者にはならないこと
(2)基礎控除額110万円以下の贈与
贈与税は基礎控除額があり、年間110万円以下の贈与では税額が発生しません。このため、どのような用途でも110万円以下の贈与であれば、贈与税はかかりません。
ただし、相続開始前3年(ただし令和5年税制改正で7年に改正)に贈与した分は、110万円以下であっても相続財産に加算されるため注意が必要です。
親子間で贈与税がかかる場合の例
上記で例示したような「贈与税がかからないもの」以外については、親子間であっても贈与税が課税されます。
例えば以下のようなケースでは贈与税が課税されるため、注意が必要です。
(1)生活費や教育費等以外の目的の基礎控除額110万円超の贈与
前述したように、生活費や教育費については「通常必要と認められる金額」を目的通りに使用していれば贈与税の対象にはなりません。しかし、親から贈与を受けて貯金をしていたり、趣味などに使用したりしていれば、基礎控除110万円を超えた部分は贈与税が課税されます。
(2)親が保険料を負担した生命保険金(親死亡によるもの以外)
親の死亡前に満期や解約、親以外の被保険者の死亡などで生命保険金を受け取った場合、親が保険料を負担していたら、子供への贈与として課税されます。
なお、親が保険料を負担していても、親が被保険者であった場合の死亡保険金は相続税の対象です。また、けがや病気による保険金は、保険料の負担が親であっても非課税です。
(3)借金の肩代わり
子供の借金を親が肩代わりした場合、原則として基礎控除110万円を超えた部分は贈与税が課税されます。借金といっても消費者金融からの借入といったものだけでなく、住宅ローン、滞納していた支払など、支払義務のあるものが対象です。
ただし子供が生活に困窮していて返済が困難な場合など、贈与税がかからない場合もあります。
(4)不動産の譲渡
無償で贈与した場合だけでなく、対価を得た場合でも時価より低い価格で譲渡した場合には贈与税がかかります。ただし時価は査定による時価だけでなく、税法上認められる方法で計算できるため、より有利に譲渡したい場合は専門家への相談をおすすめします。
贈与税の計算方法および親子間でよく活用される控除
贈与税の計算は、以下のとおりです。
(年間の贈与額-基礎控除110万円)×税率-控除額=贈与税額
父母・祖父母から18歳以上の子・孫へ贈与をした場合には「特例贈与財産用」の税率と控除額が適用されます。国税庁タックスアンサーNo.4408を参考にしてください。
次に親子間でよく活用される控除を紹介します。
(1)相続時精算課税制度
生前に贈与した金額が累計2,500万円までは贈与税がかからず、超えた部分に一律20%の贈与税がかかる制度です。
注意点は以下のとおりです。
- 選択する場合には「相続時精算課税選択届出書」等の書類提出が必要
- 一度選択すると暦年課税は適用できない
- 贈与者が亡くなれば、今までの贈与財産の時価が相続税の課税対象になる(ただし贈与税を支払っていれば、相続税から引ける)
- 原則として60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与が対象
令和5年税制改正で基礎控除110万円の創設などの改正があり、使い勝手が高まることが期待されます。
(2)住宅取得資金の贈与の非課税制度
父母・祖父母など直系尊属から居住のための住宅資金を贈与された場合、要件を満たせば贈与を受けた人ごとに、省エネ等住宅は1,000万円、それ以外は500万円まで非課税となります。令和4年1月1日から令和5年12月31日までの贈与が対象です。
(3)教育資金、結婚・子育て資金の非課税制度
教育資金贈与の非課税制度では、要件を満たせば上限1,500万円まで贈与税がかかりません。ただし扶養義務者からの通常必要と認められる教育費はそもそも非課税です。この制度の利用は主に祖父母などの扶養義務者ではない方から、一括での贈与で検討されることが多いでしょう。
結婚・子育て資金の非課税制度では、要件を満たせば上限1,000万円まで贈与税がかかりません。ともに期限や要件があります。詳細は国税庁のパンフレット(教育資金非課税制度パンフレット、結婚・子育て資金非課税制度パンフレット)も参考にしてください。
まとめ | 相続対策は専門家へ依頼がおすすめ
以上、親子間の贈与に関する贈与税について紹介しました。親子間という親しい間柄だと、財産を贈与しても税金がかかるという感覚が薄いこともあります。申告が漏れてしまうと、後で指摘された時に無申告加算税、延滞税が課されるので正確に行いましょう。
また、贈与については相続税対策とセットで検討することが効果的です。制度の理解や複雑な判断が求められるため、税理士への相談をおすすめします。
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